ポストカード
猫の咲く木
著者:大友青
イラスト:いさく
2017.04.21
秘密基地からもっと奥にある藪をかき分け、道なき道を進んでいく。すると僕がどれだけ背伸びしても追い越すことができない大きな木があった。
太陽を黒く染めるかのように、その木は堂々と息をしている。
木を見上げれば、たくさんの瞳が一斉に僕を睨みつけた。
「にゃーご」
その木を秘密基地にしているのは、大勢の野良猫達。ううん、もしかしたら飼い猫も混ざっているかもしれない。
僕はこの”猫の咲く木”が大好きだった。
最初でこそ僕をよそ者だと笑ったけれど、通い詰めた僕を基地の隊員に迎え入れてくれたのか少しだけ気を許してくれたようだ。
初めて背中に触れることを許された時、そのツンと釣り上がった目とは対象的な優しい温かさと体の柔らかさに思わず胸が焦がれた。
嬉しい時や楽しい時は、猫たちも一緒に笑ってくれる。
悲しい時や辛い時は、猫たちも一緒に泣いてくれる。
だけど月日が過ぎるにつれて、彼らは花のように少しずつ散っていった。
「ヨタ吉はどこへ行ったの?」
そう聞いても誰も答えようとしなかった。
その無言が何を意味しているのか理解できたのは僕が高校生になった時だ。
ここへ来る機会は少なくなっていたが、月に一度は様子を見にきては猫たちに近況報告をした。
「また少し減ったね……」
小さく声にすると、寂しそうに返事をする。
老猫となった彼らは涙腺が脆くなってしまったのだろうか。自由に俯瞰で生きているように見えて、仲間が散ってしまうのはやはり寂しいらしい。
「また来るね」
そう笑うと、『元気でな』と声をかけてくれた。
まるで僕がここへ来られるのは今日までだと言うことを知っていたみたいだ。
「本当にこんな奥地なの?」
「あぁ、ほら、見てごらん」
家族をつくった僕の前に、『元気でな』と言ってくれた君はもういない──。
それでも僕は『おかえり』と言ってくれる家族たちと、ゆっくり……ゆっくり……また歩み始めることにしたよ。
おやすみ……マイフレンド──。